獏(ばく)とは、人の夢を食って生きると言われている伝説の生き物です。
悪夢を見た後「(この夢を)獏にあげます」と言えばその悪夢を二度と見なくなる、と言います。
体は熊、鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎。
その昔神が動物を創造した時、余った半端物を用いて獏を創造した・・と、言われています。
それならば、獏は半端物で未熟者。
熊にも象にも虎にもなれず、寄せ集めの物。
1つの確固たる思考も持たないまま、ゆらゆらと揺れる僕のよう。
強くなろうとしても熊や虎にはなれず、
せめて壁になろうとしても、象のように大きくはなれず。
どっちつかずで中途半端なまま、ヒトに流されるまま足を進める。
「蜘蛛」であった時、僕の中には兄さんしか居なかった。
ただそれだけ在れば、「蜘蛛」として、ひとつの出来損ないなりに、強くなれた。
それが僕の生きる意味だった。
主を守る出来損ないの未熟者。けれど、自分の信念を疑った事はなかった。
ヒトと出会い、ヒトを愛し、ヒトに接し、数多の死や戦を目にし、そして僕は「獏」となる。
手を広げて掴める物の、なんと少ない事か。
この2つの眼で見える物の、なんと儚い事か。
誰かの悪夢を食らってやることすら出来ぬ。
この足で進める一歩は、とても短く頼りない。
ヒトへの思いと兄への想い。
忘れぬようにと断ち切ったあの日より、ずっとずっと僕は弱くなってしまったのですね。
今、この一瞬だけ弱音を吐いても良いのでしょうか。
そうすればまた、強くなるために進んで行けそう。
僕だって、気付くことは出来ます。知った上で、こうして此処に居るのです。
流されてばかりでは、ないのですよ。
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